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大阪高等裁判所 平成6年(ラ)177号 決定 1994年4月14日

主文

原決定を取り消し、本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状及び執行抗告理由書(各写し)記載のとおり。

二  当裁判所の判断

(一)  認定事実

次のとおり付加、訂正するほか、原決定二ページ六行目から同四ページ二二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原決定二ページ八行目の「至までの」を「至るまでの」に、同行から同九行目にかけての「については当裁判所に顕著な事実である。」を「については(なお、第二事件についての執行官保管の保全処分命令には、民事執行法一八八条、五五条の定めるとおり「買受人が代金を納付するまでの間、」との限定が付されている。)、一件記録によりこれを認めることができる。」に、同一〇行目の「この顕著な事実」を「前記一の事実」に、同一六行目末尾の「により」を「は、」に、同一七行目から一八行目にかけての「建築される」を「建築する」に各改める。

(二)  当裁判所の判断

(1) 前記(一)に認定の事実によれば、次のようにいうべきである。

<1> 債務者であり、かつ、原決定添付物件目録(1)ないし(3)記載の土地(以下「本件土地」と総称し、個別的には「本件(1)土地」、「本件(2)土地」等という。)の所有者であつた相手方乙山春夫(以下「相手方乙山」という。)は、本件土地に対する差押え(平成四年一月一〇日)後、何らの権限もないのに、更地であつた本件土地上に同物件目録四記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、引き続き本件土地のうち本件建物敷地部分以外の部分につき開始した整地工事、側溝穿掘工事を、抗告人の申立てにより発せられたその続行禁止を命じる旨の第一次保全処分命令に従わずに続行したものであるが、この行為は明らかに執行妨害を目的とするものである。

<2> その後、抗告人の申立てにより発せられた第二次保全処分命令(ちなみに、同保全処分命令は、買受人である抗告人の代金納付により失効している。)のうち、本件(1)土地及び本件(2)土地のうち原決定添付図面表示の斜線部分を除いた部分(以下併せて「本件執行土地」という。)に対する相手方乙山の占有を解いて執行官に保管を命ずる部分の執行がなされたにもかかわらず、相手方丙田株式会社(以下「相手方会社」という。)、同丁原秋夫(以下「相手方丁原」という。)は、いずれも相手方乙山の関与のもとに、相手方乙山の占有補助者として、本件建物を占有使用しているが、この行為は執行妨害を目的とするものと推認すべきである。

<3> さらに、抗告人の申立てにより、「相手方乙山は本件建物を収去して本件執行土地を執行官に明け渡せ、相手方会社、同丁原は本件建物から退去して同土地を執行官に明け渡せ」との第三次保全処分命令が発せられたが、この保全処分命令は、相手方らに対する送達遅延等により失効した。

<4> 以上の経緯により、抗告人の本件土地買受けの前後で本件土地及び本件建物の占有使用状況にさしたる変化がみられないにもせよ、債務者兼所有者である相手方乙山については、不動産引渡命令の執行までの間、少なくとも民事執行法一八八条、七七条一項に定める「不動産の引渡しを困難にする行為をするおそれがある」ものというべきである。

(2) ところで、担保権の実行としての競売の場合には、同項に定める「債務者」は「債務者又は所有者」と読み替えるものと解すべきであり、その中には債務者又は所有者の占有補助者が含まれるものと解するのが相当である。

(3) そうすると、本件においては、相手方らに対し、同条項に定める買受人のための保全処分命令を発する要件が存在するものというべきである。

次に、民事執行法一八八条、五五条による売却のための保全処分命令は、買受け当時の価格形成の基礎となつた原状を維持することをその目的の一つとしているとみられるが、この点は別としても、本件買受け申し出の当時、第三事件の保全処分命令が発せられるものとかなり高い確度で予想される事情にあつたのであつて、このことは一件記録に照らし極めて明白であるから、本件における保全処分命令を発するについても、右の事情を前提にその具体的内容、程度等が判断されるべきである。

ところで、前記のとおり、本件土地のうち本件執行土地については、売却のための保全処分命令により、執行官がこれを保管し、公示している。しかし、右の保全処分命令は、買受人の代金納付により失効し、執行官において保管を継続する権限は既に消滅しているとみるべきであるから、引渡命令の確定までその権限があるものとは解されない(なお、執行官の右権限の消滅により、その保管を引き継ぐべき相手方については、議論の存するところである。)。したがつて、執行官が、利害関係人等からの申出がないこと等のため、その失効を知らずに、引渡命令の確定までその保管を継続していたとしても、それは事実上のものにすぎないというほかないのであつて、右執行官保管の事実をもつて、買受人のための執行官保管の仮処分の申立てをする実質上の必要性ないしは申立ての利益がないとはいえないのである。

(三)  結論

以上によると、相手方らに対する買受人のための保全処分命令を発する要件が存在しない、あるいはその必要性がないとしてこれを却下した原決定は、取消しを免れない。そして、前記事実関係によれば、相手方らが行つた行為を悪質の度の高いいわゆる執行妨害行為とみることは十分理由のあることというべきである。したがつて、抗告人の申立ての趣旨による保全処分命令を発することを是認する余地もあるのであるが、これらの保全処分命令を発するにあたつては、保全の目的やその裁量的性質等にかんがみ、なおその後の状況の変化の有無等をも調査し、発すべき具体的で効果的な保全処分命令の内容、程度、立担保の要否及びその担保の額等につき、原裁判所においてこれを検討すべきものとするのが相当である。

なお、本件においては、引渡命令が発せられ得るとしても、そのゆえをもつて前に説示した買受人のための保全処分命令を発することが妨げられないことはいうまでもない。また、民事保全法によるいわゆる断行の仮処分命令の発せられる可能性があること、別途相手方らに対する本案訴訟を提起すること等が可能であることは当然である。しかし、そのゆえに、前記の保全処分命令を発することができないとはいえない。この点は同法一八八条、七七条の規定の趣旨に照らし明らかである。

よつて、原決定を取り消したうえ、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 裁判官 東畑良雄)

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